医療コラム、「Expert Eyes」の初回は、3回に分けてアトピー性皮膚炎の治療の現状について記述してまいります。
皮膚科で取り扱う疾患の中でも、「アトピー性皮膚炎」は、20代では約1割という多くの人々が罹患しています。
この疾患は、完治することが難しいと言われており、新たな治療法などの研究が現在も進められています。
アトピー性皮膚炎(AD)は一般に湿疹と呼ばれていますが、
皮膚の乾燥、かゆみ、炎症、易感染傾向を特徴とする慢性で再発性の疾患です。
その疾病負担は非常に重く、世界全体ですべての非致死性疾患の中で15位ですにランクされています。
ADの原因は不明ですが、以下の要因が関連しています。
- ヒトの遺伝子変異(特にフィラグリン)
- 皮膚バリアの破綻
- 炎症を誘発するアレルゲン
- 皮膚マイクロバイオームのアンバランス
これらの要因を知ることが、新しい標的治療アプローチの基礎となります。
ADでは、喘息やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーのほか、アレルギー性接触皮膚炎、不安、うつ病、自殺念慮、感染症、心血管疾患といった非アトピー性の疾患など、様々な併存疾患がみられます。
AD患者の精神障害リスクの上昇については、
- 激しくで持続性の的なかゆみ、
- 長期化し再発する性質、
- 慢性的な炎症、
- アトピー性またはアレルギー性併存疾患のリスクが高い
といったADの症状および特徴によって説明が可能です。
そしてこの、かゆみによる睡眠障害によって、患者の精神衛生にもたらされる影響がさらに強くなる場合もあります。
このように、ADに伴う問題や治療に多大なエネルギーを要するために、成人、小児ともAD患者の生活の質(QOL)は
ご家族も含めて著しく損なわれることが多いのです。
患者とそのご家族の身体的、精神的、社会的健康状態へのADの圧倒的な負担を考えると、
新たな標的治療の開発には差し迫ったニーズが存在します。ADの発症機序に対する理解が進めば、現行の治療法よりも標的指向性が高く、さらに有効性と安全性に優れた外用薬や全身薬が開発されるでしょう。
今後の研究では長期の有効性および安全性に加え、1人1人に合わせた最善の管理法の創出に重点を置く必要性があります。
